【3459】 ○ 小林 祐児 『リスキリングは経営課題―日本企業の「学びとキャリア」考』 (2023/03 光文社新書) ★★★★

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「リスキリング」議論が表層的であることを指摘し、解決への仕掛けを提示。

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リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考 (光文社新書) 』['23年]

 最近「リスキリング」という言葉が浸透しつつありますが、本書の著者は、日本の「リスキリング」議論は、社会人の学習行動やその背景にある認知のメカニズムに関する学術的知見が参照されず、必要なスキルの教育訓練とその後の就業のみを目的とする表層的なレベルにとどまっているとしています。本書では、それを人をスキルの鋳型に入れる「工場モデル」であると指摘した上で、個人のやる気頼みではなく、動機付けを仕組み化すべきだとしています。

 全8章構成の第1章では、日本においてなぜ突然の「リスキリング」ブームは起きたのか、また、日本おけるそうした「リスキリング」の議論が表層的なものになってしまっている理由を考察しています。その上で、いわゆる人をスキルの鋳型に入れる「工場モデル」の欠点と、それを乗り越えるには、リスキリングのための動機付けを仕組み化の必要であることを説いています。

 第2章では、リスキリングにおいて最大のハードルとなる日本人特有の「学ばなさ」について分析し、そこには「学ばせたくない」企業と「学びたくない」国民の共犯関係があるとしています。そして、いま企業が連呼する「主体的な学び」や「自律的なキャリア形成」も、従業員の「個の力」への過剰な期待の表れに過ぎないとしています。

 第3章では、次に大きなハードルである従業員の「変わらなさ」をテーマに、日本における問題について論を進め、そうした〈変化抑制〉が起きる原因と、〈変化適応力〉を促進する心理や、〈変化適応力〉に影響を与える人事マネジメントについて述べています。

 第4章では、調査結果から、「アンラーニング」「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・ブリッジ」の「3つの学び」がリスキリングを支える具体的な学び行動として見い出されたことを示し、それぞれの具体的手法を解説しています。

 本書後半では、リスキリングを促進するための「変化創出モデル」を提案しています。リスキリングを本来の創発的な営みに近づけるには「行動変化」「学びのコミュニティ化」「意思の創発」という3領域で仕組み化が必要であるとし、第5章から第7章で、この3つの領域のそれぞれの具体的な仕掛けを解説しています。

 現在の日本におけるリスキリングをさまざまな角度から分析し、これから日本はリスキリングをどう進めるべきか提言した本であり、その根底には、リスキリングを一過性のブームで終わらせてはならないという著者の気概が込められています。従業員の学びに関心を持つ人事パーソンにお薦めします。

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